「上面穴付き丸ナット」や「ピン穴付き丸ナット」は、産業機器の締結部で使われる特殊なナットです。
一般的な六角ナットとは異なり、上面やサイドに小さな穴が開いています。
その独特な形状や構造から通常のスパナやレンチでは取り外すことが出来ません。
表面に開いたピン穴を利用してトルクをかける構造になっていて、ピンレンチやピンスパナと呼ばれる、専用の工具を必要とします。
誤った方法で作業を行うと、ナット自体や周囲の部品を傷つけるリスクがあるため、正確な知識と手順の理解が不可欠です。
本記事では、丸ナットの基本的な構造や特徴を説明し、正しいピンレンチの使い方を解説します。適切な工具の選び方から、工具がない場合の自作による代替手段の作成例と、実践的なテクニックをご紹介します。
丸ナットはコツを押さえれば簡単に外すことが可能です。さらに、メンテナンス初心者でも安心して挑戦できるよう、失敗しがちなポイントや注意点も取り上げます。
どうぞ最後までご覧ください。これを機に、安全かつ効率よく作業を進められる知識を身につけていきましょう!
目次
上面穴付き丸ナット、ピン穴付き丸ナットとは?
外形が円形のナットで、ナットを回すときに使う穴が上面にあいたものを「上面穴付き丸ナット」や「ピン穴付き丸ナット」と呼びます。
JIS B 0101内の番号2616に、用語として「上面穴付き丸ナット」は記載があります。
JIS規格として、規格されていないためメーカーが独自に設計・製造している場合が多く、寸法や穴の数、位置などがメーカーによって異なります。

JIS B 0101内の番号2615には、「横穴付き丸ナット」と記載があります。
こちらは、外形が円形のナットで、ナットを回すときに使う穴が側面にあいたものを「横穴付き丸ナット」と呼んでいます。
丸ナットの使用箇所
・工作機械の主軸や回転軸まわり
高い精度が求められる主軸部などに使用され、緩みを防ぎつつ適正トルクで締結できることが重視されます。
・スペースが限られた箇所
円筒形状のナットであり、上面に穴があるため、六角ナットのように大きいレンチをはめる必要がありません。工具の挿入角度に制約がある場所でも、溝や穴を活用して回せるため、狭いスペースでも作業しやすくなります。
ピンレンチ、ピンスパナの概要
丸ナットを回すためには、ピンレンチやピンスパナと呼ばれる、専用の工具を必要とします。
使い方は、理屈が分かれば簡単です。
工具先端にピンが出っ張っていますので、ピンを丸ナットの穴へ差し込んで回すのみです。
ピン穴径と、ピン間の寸法に合う工具を選定する必要があります。
筆者は、株式会社スーパーツールのピンスパナのPW100と、株式会社エスコのピンレンチセットEA613XTを使用しています。
この2つは、対応するピン直径が違います。ピン穴のサイズによって使い分けします。
PW100の製品仕様
・先端の口開きは、18mmから100mmまで調整可能です。
・ピンの直径は、5mm、6mm、7mm、8mmに対応しています。
・片手ハンマーによる打撃ショックも行えます。


開いた状態です。


EA613XTの製品仕様
・先端の口開きは、8mmから100mmまで調整可能です。
・ピンの直径は、1.5mm、2mm、2.5mm、3mm、4mmに対応しています。(各2セットずつ付属)

開いた状態です。

対象物にあった工具が見つからない場合は?工具は自作できる?
市販品で工具が無い場合は、自作するという方法もあります。
こちらは、筆者が自作したピンレンチになります。

ボルト固定用の穴が開いたアングルと、六角ボルトを使用してます。六角ボルトをピン穴に入れて回します。
剛性が足りず使用する際に、アングルが多少ねじれてしまいました。
ボルトサイズは、分解したい丸ナットに開いた穴径に近いサイズを選定しています。
アングルに開いた穴径とボルトサイズが合わずに固定できない場合は、ワッシャーを入れて固定するようにしましょう。
材料は、アングルと六角ボルトのためホームセンターでも手配できます。
丸ナットの回し方を解説!
使用する工具が分かったら、作業に取りかかっていきます。
作業時の要点があるので、ポイントをしっかり押さえてください。
1.事前準備
ピン穴に合った適切なピンレンチを選ぶ
対象のナットや部品の穴間距離(ピンの間隔)に合ったピンレンチを選びましょう。
ピンのサイズが合わないと穴を傷めたり、作業中に滑って工具が外れる危険があります。
作業環境を整え、対象物をしっかり固定します
対象物を確実に固定します。固定ができていないと工具を使ってトルクをかけたときに、対象物が動き工具が滑って外れる危険があります。
工具が外れた際に、怪我をする可能性もあるのでしっかりと固定してください。
2.ピンレンチを正確に差し込む
ピンレンチのサイズ選定が、非常に重要になります。
ガタツキのない状態で差し込めることがベストです。
3.ピンレンチを回す
ガタツキのない状態でピンレンチを差し込めたら、回したい方向へ回します。
トルクをしっかりと丸ナットへ伝えていくことが重要です。
ピンレンチを押し込む方向への力を加えつつ、ピンレンチを回したい方向へ回転させていきます。
プラスドライバーで締め付け、緩めを行う時にも同じことが言えますが、ドライバーを押し込む力を意識するとネジ頭がなめるのを防げるように、ピンレンチも同じ要領でピンレンチを押し込む力を意識して回転させていきます。
※注意点
ピンレンチが外れるようであれば、ピンレンチを平行に回せていない可能性があります。斜めにピンレンチを回していないか確認しましょう。
固着している場合は、錆びた箇所に潤滑剤を浸透させ、数分待ってから再度挑戦しましょう。
まとめ
丸ナットは特殊な形状ですが、正しい工具選びと作業手順の理解があれば、安全かつ効率的に取り外せます。
筆者が実際に使用して使いやすいピンレンチを紹介しています。
株式会社スーパーツールのピンスパナのPW100と、株式会社エスコのピンレンチセットEA613XTになります。
作業に関しては、以下のポイントが重要になります。
適切なピンレンチを選ぶ・・・ピンレンチのサイズ選定は間違いないようにしましょう
作業環境を整え、対象物をしっかり固定する・・・丸ナットにトルクをかけるためには、固定をしっかりする必要があります。
トルクをしっかりと丸ナットへ伝えていきます・・・ピンレンチを押し込む方向への力を加えつつ、ピンレンチを回したい方向へ回転させていきます。
工具を自作することも可能です。
これらの知識と手順を押さえれば、上面穴付き丸ナットやピン穴付き丸ナットの作業で失敗を減らし、効率よくメンテナンスを進められます。
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